COOKING INGREDIENTS
伝えていきたいこの仕事
源平膾、結び酢牛蒡、酢蓮根、大根なます
源平膾、結び酢牛蒡、酢蓮根、大根なますの作り方
源平膾、結び酢牛蒡、酢蓮根、大根なますの作り方
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●源平膾は、牛蒡と人参は皮を食べるものなので、なるべく皮は薄く剥きます。特に今回使っている京人参(別名金時人参)はカロチンが強く、表面の皮の部分に赤い色素をたくさん持っていますから、人参の匂いは普通のオレンジ色をした人参より薄いんです。ですから、人参とか牛蒡などは、あまり皮を剥かずに、擦る程度という感覚で行います。
人参は皮を剥いて、適度な厚さで縦に庖丁します。簡単そうに見えますが、人参を同じ厚さに切らないといけません。この厚さが最終的に結んだ時の太さになりますから、それに合わせるためにこの厚みを調整するわけです。ですから一番大切で、この一連の作業では一番難しいところです。例えば少し斜めになって削り落すと、その分だけ端材が出て歩留りが変ってしまいますし、また、細さにもよりますが、どのくらいの結び目にするかによって大きさが変わります。最後に結んだ後で端を切り落としますが、結べる程度の長さで、切り落とす部分がなるべく少なくすむように、一番歩留まりのいい取り方をします。切り落とした端の部分ももちろん捨てるわけではありませんが、製品としてはあまり使い道がないので、余分がないように、寸法をきちっと測っておいて、一番無駄を出さないようにします。
縦に庖丁した人参は、なるべくギリギリのところまで面取りしておき、人参の皮に近い部分を利用して紐状に作ります。縦に庖丁した時の端の方はいいのですが、人参の芯のところ、中心のちょっと赤みの強い部分はスが入っているため、煮物などに用いた場合、ここから煮崩れを起こすところです、細胞が粗くて繊維が弱いため壊れやすく、この部分を使ってしまうと非常に切れやすくなります。ですからここの部分避けるように、なるべく皮に近いところで紐状に作るわけで、こうすると極力無駄がでません。もちろんこの芯の部分も捨てるわけではなく、別にミキサーにかけたり、煮込みする時の野菜に使ったりしていますが、本当に大事なことは、人参をどのように扱うのかということなので、このような取り方をしているわけです。
牛蒡は薄く皮を剥くというか、たわしで皮をそぎますが、今回はアクの度合いが少ない磨き牛蒡を使いました。あとは京人参と同様に、無駄出さないように同じぐらいの太さに揃えて切っていき、酢水に落とします。これは作る量が多いので、切ったものにアクが絡まないようにするためで、同様に人参も割れてしまうので、塩水に落とし、切り口が空気に触れないようにします。この後一度茹でるわけですが、茹でるのはやっと芯に火が通るくらいです。
今度は牛蒡と人参を合わせたものを二本で結んでいきます。手順としては、片側を引っかけ、二つに引っかけ、通し、縛り、のばす。そして最後に端をまとまりのいい長さに切る……といったところで、非常に説明しづらいのですが、簡単に言うと、二つの輪と輪を合わせ、合わせたものを、クロスさせるように巻くわけです。この時大事なのは、輪になっている部分は必ず赤が外側に出てくるようにすること。ただし、作業とすれば、要は輪を二つクロスさせればいいことですから、各々どうやったら早くできるか、自分なりの手順を考えてやっています。
けっこう数を作るので、全部結び終わるまでに時間がかかってしまうため、その間、まあ人参だけならいいんですが、牛蒡がアク絡んでくるため、必ずちょっと強めの酢水に浸けてアク止めしておきます。浸けている間にゆるんできたとこをきちっと結び直して、端の四つ出ているところを切り揃えてから甘酢に漬けます。盛り付けする時まで漬けておきますが、水気があるため水分が出てきますから、そのままでは腐敗につながってしまうので、4日~5日くらい経ってから、甘酢替えといって一度甘酢を全部替え、最後までそのまま漬けておきます。とくに牛蒡の場合は、茹でたとしてもアクが絡んでくるので。必ず酢漬にするのがいいと思います。
結ぶという作業は、昔、家を建てるのも、柱にしても釘とか使えなかったので、田舎のほうの家というのは藁で縛っていたんです。柱など組み込んで、その時必ず縛る。世界遺産の白川郷の合掌造りも全部藁で柱を縛っている。この作業が分からないと日本を語れないといえるくらい、縛るというのは大事なことなんです。「縛る」すなわち「結ぶ」ということ。結婚式だって結ぶと言いますね。だから結ぶというのはすごく大切なわけで、だから今でもお祝いの席などでは結びというのは残っているんですね。別に料理に限ったことじゃありませんが、何にしても短すぎれば結べません。それはちゃんと結ぶ長さというのがあるわけですから、これをきちんと把握することが、無駄を出さないという方法なんです。無駄を出さないで、例えば一本の人参でどのくらいの量を結べるかというのが大切です。手作りというのはそれが見えてくるんですが、逆にこれが見えないから今は色々な問題が出てきている。本来このように手作りして、みんなが目で見ていれば、偽装もなければ何もない、しかしこれを委託業者に任せ、誰がやったというのが見えないから色々な問題が出てくる。見えるというのは安心、安全というところに繋がっているんです。 -
●酢蓮根はおめでたい時も法事の時もけっこう使えますね。まずは蓮根を適宜に切り、荒皮を剥きます。蓮の皮はえぐみがあって食べられないんですが、ここではなるべく薄く剥いておきます。それからある程度、穴が大きくなって剥きやすいところまで両端を切り揃えます。切り落としたものはミキサーにかけて蓮根団子にしたり、つくねを作る際に柔らかさを調えるために一緒に加えたりして利用します。そして穴のない厚い部分に庖丁で切り目を入れ、花のように剥きます。このように穴と外の厚さを均等にしておくと、茹でた時に火の入り方が同じになるわけです。浮きやすい蓮というのは丸みを帯びていて、当然中央の部分は多少丸みを帯びていますから、真ん中は厚くなっていますね、ですから正確には一箇所に関して両端からと中央部分の3回に分けて庖丁を入れていきます。はじめにあまり皮を厚く剥いてしまうと、もちろん剥いた手くずは別のものに利用しますが、酢蓮根として使える部分が減ってしまうわけです。終わったら酢水に浸けて、酢が入ったお湯で茹でて真っ白く仕上げ、これをすぐに甘酢に漬けます。一度茹でるのは甘酢に入れたときにアクが絡まないようにするためですが、この甘酢も温めて同じ温度くらいにしておかないと、新蓮根でもない限り柔らかく仕上がりません。これでできたもの一本を庖丁で4枚に切ったものが一軒分になります。これなら蓮根の山がきれいに揃いますね。
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●大根なますは、まず大根の皮を剥いて輪切りにして、それをさらに打ち込んでいきます。皮は厚く剥いておいて後で何かに使うこともありますが、今回のはあまり厚くは剥いていません。だいたい0.5mmくらいの短冊に切り落とし、これを打ち込んで塩漬にして、最後に酢漬、あちゃら漬にします。あまり薄く切ると歯応えがよくないので、ある程度歯応えが残るように、あまり薄すぎず、厚すぎずという程度の厚さです。
これも無駄を出さないようにきること。重要なのはその点だけですね。大根なますですから白い大根がメインで、でもあまり真っ白じゃ色がないので、色みでチラっと赤い人参が入ります。塩水に浸けて完全にしんなりしたら一度甘酢で洗ってよく絞って、それを今度甘酢の中に漬け込みます。あんまり漬かり過ぎると、なんて言いますか、大根の繊維が透明に透けてしまいます。お客さんにお渡しするギリギリに作るのが理想的ですが、暮れに近ければ近くなるほどやることが増えてくるので、正直膾などはなるべく早く仕上げてしまいたい……、しかしあまり早く作ってしまうと今度は美味しさがなくなってしまうので、重詰めが30日で食べるのが1日ですから、逆算して日にち的には12月の20日過ぎから25日の間くらいに作るようにしています。物を美味しくするための調味料はそんなに入れるものではありません。調味料というのは本来、基本的には、物を付けて食べるものではなく、そのものを日保ちさせるため、あるいは塩漬、砂糖漬、醤油漬、酢漬など、物を漬けて保存するためのものです。 -
●羽子板人参、大根は、源平膾に使った人参の尻尾のところを利用して、お正月だから羽子板に仕立ます。飾りですからあまり大きくなくてもいいので、だいたいの長さを決め、薄く皮を剥いて、もともと人参の端はこのように末広がりみたいな形になっていますね。その形を利用して作ります。紅白あるので大根も同じように、大根なますの余った部分を、太いものだったら四つにしたり、普通では使いづらい端の部分を使って作ります。1.5人前のお重で紅白が2~3個チラっと付いていればいいものですから、数的には100件で300枚ずつ作れば間に合うので、このような切れ端で充分なわけです。ただ注意する点は、人参と大根は繊維が違い、大根のほうが繊維が粗くて水分量が多いので、同じ濃度の立塩に浸けてころした場合、どうしても大根のほうが縮む率が大きいんです。ですから最初に同じ大きさにしてしまうと、出来上がりは大根のほうが小さくなってしまうので、大根のほうをちょっと大きく厚くしておき、しんなりした時にちょうど同じ大きさになるようにします。
野菜などは塩漬にすると、水分が塩水の中に溶け込んでいくからなんでも小さくなりますが、大根はだいたい1割くらいは痩せてしまいます。1回りちょっと大きくしてくと、しんなりした時にちょうど同じくらいになります。 -
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源平膾、結び酢牛蒡1
源平膾は、人参の皮を薄く剥きます(牛蒡も同様です)。 -
源平膾、結び酢牛蒡2
適度な厚さで縦に庖丁します。この厚さが最終的な太さになります。 -
源平膾、結び酢牛蒡3
紐状に作ります。人参の芯がない部分は太さを揃えるだけで使えます。 -
源平膾、結び酢牛蒡4
芯の部分があるところは、そこを避けて皮に近い部分を利用します。 -
源平膾、結び酢牛蒡5
同様に紐に作った牛蒡と紅白にします。2組4本で1個になります。 -
源平膾、結び酢牛蒡6
紅白1組で輪のようにして、もう1組の端を輪に通します。 -
源平膾、結び酢牛蒡7
外からまわします。 -
源平膾、結び酢牛蒡8
最初の輪のほうに通します。 -
源平膾、結び酢牛蒡9
簡単に言うと、二つの輪を合わせ、クロスさせるように巻く形です。 -
源平膾、結び酢牛蒡10
輪になっている部分は必ず赤が外側に出るようにします。 -
源平膾、結び酢牛蒡11
全部結び終わるまで酢水に浸けてアク止めしておきます。 -
源平膾、結び酢牛蒡12
端を切り揃えてから甘酢に漬けます。 -
酢蓮根1
酢蓮根は、蓮根を適宜に切ります。 -
酢蓮根2
荒皮を剥きます。ここではなるべく薄く剥いておきます。 -
酢蓮根3
ある程度穴が大きくなって剥きやすいところまで両端を切り揃えます。 -
酢蓮根4
穴のない厚い部分に庖丁で切り目を入れ、花のように剥きます。 -
酢蓮根5
穴と外の厚みを同じにしておくと、茹でた時、均等に火が入ります。
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COMMENT
「すべての品を手作りする」をコンセプトに、シリーズでお伝えする『伝えていきたいこの仕事 おせち料理編』。第八回は、【源平膾、結び酢牛蒡、酢蓮根、大根なます】をご紹介します。作り手は、鈴木直登師範(東京會舘2009年1月)です。