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伝えていきたいこの仕事

紅白水引蒲鉾・蟹蒲鉾・松葉蒲鉾

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COMMENT

「すべての品を手作りする」をコンセプトに、シリーズでお伝えする『伝えていきたいこの仕事 おせち料理編』。第七回は、【紅白水引蒲鉾・蟹蒲鉾・松葉蒲鉾】をご紹介します。作り手は、鈴木直登師範(東京會舘2009年1月)です。

紅白水引蒲鉾・蟹蒲鉾・松葉蒲鉾の作り方

紅白水引蒲鉾・蟹蒲鉾・松葉蒲鉾の作り方

  1. 蒲鉾

    蒲鉾は三種類。紅白蒲鉾、慈姑を使った松葉蒲鉾、蟹で作る蒲鉾の三種類作ります。おせちに入れる蒲鉾作りの作業は、あまり早い時期からはできないんですね。これは何日間保たせるために調味料をどの程度入れるかではなくて、作ったものが何日間保つかということなので、逆算して作業日が決まってきます。

    蒲鉾というのは、もともとは竹輪のことを蒲鉾といっていました。蒲の穂に似ているので蒲鉾と云っていたので、板蒲鉾よりも竹輪のほうが古いんです。また、蒲鉾を板に付けるのもちゃんと意味があって、乾いた木が水分を吸ってくれるので傷みが少なくて済むわけです。ですから匂いが移ってしまいますので、木なら何でもいいわけではないんですね。

  2. ●紅白水引蒲鉾

    生身をある程度当たり、砂糖水を入れて固さを調えます。砂糖水と塩水を入れるのですが、砂糖水は保存のために用いるもので、これは本来ならば昆布出汁使うところですが、それでは傷みが早いため、おせちの場合は日保ちさせるため砂糖水を入れて行います。おせちは本来甘いものなんですよ。2kgの生身に対して約300gの砂糖を4カップほどの水でのばしたもので、普通の会席で作っているような蒲鉾よりは砂糖水の方がより多く入っています。塩は最後にほんの少し入れます。塩を入れないと蒲鉾は力が出ないんですよ。生身には必ず塩が入っています。

    おせちで大量に作るので、実際はオーブン鉄板を用いて作っていますが、ここでは通常の作り方をご紹介します。まず生身を板擂りして付け板に付けていきます。板擂りして固さ、それに擂り鉢で合わせ切れなかった部分を合わせるわけです。板擂りするとこしが出るんですね、これはどんな蒲鉾屋さんでもやっています。付け板に付けていく時に注意する点は、中に気泡を入れないことです。食べて美味しくないということではなく、気泡、つまり小さい空気の穴が入ると、火を入れた時にその気泡に水滴が溜るんです。時間が経つとそこから傷んでいくため、なるべく気泡を入れないようにするのがここで一番大切なところです。付け板に取って作りたい幅にのばして形を取り、通常の板蒲鉾の状態にます。そうしたら角を切って、今度は縦半分の真ん中に溝をつけ、半分の蒲鉾地の表面を取って少し薄くして、その部分に今度は赤く色付けした生身をのせていきます。これは手早く行わないと、常温で作業をしていても火が入って固くなり、上にのらなくなって(付きが悪くなって)しまいます。これで紅白になるわけですが、先ほど角を落としたのは、赤をのせる時に角が出っ張っていると、白の部分と混ざってしまうからです。紅白の水引ということで、紅白に分けたまん中の溝に金箔、銀箔を入れています。

    普通ならこの後、蒸し器で蒸して作りますが、おせちに使うということでは蒸しません。蒸した場合ですと水分量が多くて腐敗が早いため、日保ちを考えて、全てオーブン(120℃で20分)で焼いて火を入れます。

  3. ●蟹蒲鉾

    魚の擂り身と蟹の擂り身を合わせ(蟹身は生身に対して2割から3割、生身は16kgくらい使用)、玉子の素を入れ、蟹の上身のほぐし身(蒸したもの)を入れてよく合わせます。分量は生身6kgに対して水4合、玉子の素1合、酒大さじ7杯です。合わせたらオーブン鉄板に平らに取ります。これは中央からやるとずれてしまうのと、端の方から空気が入ってしまうため、なるべく空気が入らないように最初にまわりを固めてから全体を平らにします。オーブン鉄板にはアルミホイルを張り、油を塗って剥がしやすくしておきます。玉子の素を少し入れたのは火の通りが早くなるようにするためと、油が入ることによって傷みが少なくなるんですね。蟹そのものはどうしても傷みやすい食品の一つなので、油を入れることによって少しでも腐敗を止めるということ、それに蟹そのものは油が入ることによって旨みが出てきます。

  4. ●松葉蒲鉾

    松葉蒲鉾は慈姑で作る蒲鉾です。こんな蒲鉾作っているところは多分他にはないですよ。慈姑を卸し金で卸し、漉して絞り、汁と身に分けます。この時、松笠慈姑を作る時に出る多量の手屑も、ゴミだけを取ってミキサーにかけて利用します。汁の方はそのまま置くと澱粉が沈殿してきますから、上澄みを捨てて、その澱粉だけを取り寄せて布で絞り、先ほどの慈姑、それに擂り身(生身)と一緒に混ぜ合わせ、玉子(卵白)、砂糖を合わせて味をつけます。玉子は黄身を使った方が美味しいのですが、松葉にするため白く上げる必要があるため卵白を使います。玉子と一緒に砂糖を入れるのは保存のため、また、慈姑を卸したものと絞り汁の沈殿したものを分けるのは、分けないとアクが絡んでしまうからです。そのため澱粉質のものと繊維のものと分け、それで澱粉質のもので固めるわけです。本来ならば慈姑だけで固めるのが一番よくて、精進料理・精進蒲鉾というのはこれだけで固めるのですが、それではコストがかかりすぎてしまうため、つなぎに擂り身を入れて蒲鉾にします。慈姑はだいたい2割から3割くらいです。

    これを蟹蒲鉾と同じように鉄板にのばしていくわけですが、ちょっと違う点は、慈姑蒲鉾を作るならこのまま焼けばいいのですが、松葉蒲鉾なので上を緑にするため、今度はこの上に菠薐草の青寄せで作った擂り身をのせます。擂り身にも保存性を考えて砂糖を入れていますが、色も鮮やかになりますね。上に塗る擂り身にも慈姑が入っていればどうということはないのですが、そちらには慈姑を入れていないので、固さが違うから均一にのばすのはけっこう難しいですね。この後にオーブンで焼いたものを常温で冷まし、今度は冷蔵庫に入れます。

    1. 紅白水引蒲鉾1
      紅白水引蒲鉾は、生身を当たり、砂糖水で固さを調えます。

    2. 紅白水引蒲鉾2
      塩をほんの少量加えます。

    3. 紅白水引蒲鉾3
      生身を板擂りして付け板に付けていきます。

    4. 紅白水引蒲鉾4
      なるべく気泡をいれないように作業を進めます。

    5. 紅白水引蒲鉾5
      作りたい幅にのばして形を取ります。

    6. 紅白水引蒲鉾6
      角を切って、縦半分の真ん中に溝を付けます。

    7. 紅白水引蒲鉾7
      半分の表面を少し取って赤く色付けした生身をのせていきます。

    8. 紅白水引蒲鉾8
      常温での作業でも火が入って固くなるので、手早く行います。

    9. 紅白水引蒲鉾9
      あらかじめ角を落としておかないと、紅白が混ざってしまいます。

    10. 紅白水引蒲鉾10
      真ん中の溝に金箔、銀箔を入れます。

    11. 紅白水引蒲鉾11
      オーブン天板を使う場合、金串をあて、付け包丁の先端を使います。

    12. 蟹蒲鉾1
      蟹蒲鉾は、生身と2~3割の蟹すり身を合わせます。

    13. 蟹蒲鉾2
      玉子の素、水、酒を合わせ、さらに蟹のほぐし身を加えます。

    14. 蟹蒲鉾3
      アルミホイルを張ったオーブン天板に周りから固めるように取ります。。

    15. 蟹蒲鉾4
      なるべく空気が入らないように平らにします。

    16. 蟹蒲鉾5
      焼き上げます。

    17. 松葉蒲鉾1
      松葉蒲鉾は、慈姑を卸し金で卸します。

    18. 松葉蒲鉾2
      松笠慈姑を作るときに出た手屑もミキサーに掛けて一緒に漉します。

    19. 松葉蒲鉾3
      絞って汁と身に分けます。

    20. 松葉蒲鉾4
      汁はそのまま置いて、澱粉が沈殿してきたら上澄みを捨てます。

    21. 松葉蒲鉾5
      汁を絞った残り、慈姑の繊維の方です。

    22. 松葉蒲鉾6
      慈姑の身(繊維)、澱粉、生身、玉子を合わせます。

    23. 松葉蒲鉾7
      オーブン天板に平らにとり、緑に色付けした生身をのせます。

    24. 松葉蒲鉾8
      焼き上げます。

鈴木直登 氏

  • 大手町・東京會舘
  • 和食総調理長・師範