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伝えていきたいこの仕事

鰊昆布巻・穴子昆布巻

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伝えていきたいこの仕事

COMMENT

「すべての品を手作りする」をコンセプトに、シリーズでお伝えする『伝えていきたいこの仕事』丁寧な手作りの工程を手元写真を使って丁寧に解説していきます。日本料理の伝統を伝えてきます。

鰊昆布巻・穴子昆布巻の作り方

鰊昆布巻・穴子昆布巻の作り方

  1. ●鰊昆布巻
    上質の昆布、これは北海道産です。この粉を吹いているところをたわしで取ります。これが残っていると、煮ていく過程で濁ったり、煮上がりが悪くなります。爪が真っ白になるくらい粉がすごく舞うので、あまり板場ではやらない作業です。

    身欠き鰊を米のとぎ汁でもどします。使用する鰊は、昔ながらの本当の身欠き鰊ほど固くはありませんが、最近よく市販されている柔らかいものではありません。鰊昆布巻の大事なところは、鰊昆布巻が出来上がったとき、昆布と鰊の柔らかさが一体になっていることです。昆布のほうが鰊よりも柔らかいので、鰊を完全に柔らかくしきった時に昆布が溶けていないようにしなければいけません。

    もどした鰊を昆布二枚で巻いていきます。昆布がもどると少し長くなるので、この時点では昆布の方をある程度少し短くしておきます。また昆布が膨れ上がってくるので、巻き加減はあまりゆるくても、また強過ぎてもいけません、後ほどきちんと昆布の厚みが出てくれるように巻いていくのですが、これがなかなか難しいですね。巻いた時は継ぎ目を下にしておきます。

    昆布で巻いたら、今度は干瓢で縛っていきます。干瓢は塩を加えて揉み、水洗いしてもどします。全体に充分に塩が行きわたるくらいの、ほんとにサッとです。昆布巻を結んでから煮てもどし、また煮ていくので、これはあまりもどし過ぎないほうがいいですね。干瓢もなるべく無駄がないように、切らずに長いまま用い、結び切りします。昆布巻一本で何カン取るかはお店によって違うわけですが、うちでは基本的に五カンとりますから、干瓢で縛る時は、端を押さえて、まず真ん中、両端、そしてその間を縛ります。必ず一ヵ所につき二巻きして縛ります。ひと巻き目はきっちり巻いていいのですが、二巻きめはちょっとゆるめというか、ふわっとさせます。二巻きめまできっちり巻いてしまうと、昆布がもどって膨らんだ時にボンレスハムみたいになって切れてしまい、かといって完全にゆるくすると、今度は煮ている間にばらけてしまいます。結び目は必ず上にすること、これは圧力がかかって結んだところが潰れてしまうのを防ぐためです。膾のところでも話しましたが、昔は家を建てる時も柱を紐で結んでいました。家と家を結ぶ結婚ということに関しても、結ぶということは大切だったんですね。

    今度は鍋にきめていきますが、この時は必ず隙間を入れて組んで、並べる方向を変えて3段に重ねます。綺麗に並べていますが、煮上げた時、最終的に煮汁が上手く全体に回るように。どこから見ても鍋の底が見えるようにきめています。三段あっても一番下と一番上が同じ煮汁が回るように。一番上はある程度詰めてもいいのですが、下と真ん中は少し隙間を開けます。一回茹でこぼせば分かりますが、昆布がある程度もどって張りが出るので、その時にまだ若干余裕があるくらいに、昆布が膨れた時の状態を想像しながら。余裕を持たせます。ですから4段以上に重ねると無理が出てくるんですね。

    これを火にかけて一度茹でこぼします。火加減はまず沸騰する手前くらいで一回火を弱め、それで茹でこぼします。鰊は穴子と違ってかなり脂が出ますから、2~3回茹でこぼします。ある程度煮こぼしたら今度は酒入れて、出汁入れて、仕上げのほうで梅干を入れてもどしにかけます。落し蓋をして重石をのせ、少し圧をかけますが、昆布の膨らみなどが変わってきてしまいますので、この圧力の調節がなかなか難しいわけです。重石をのせないと膨れ上がってしまいますが、単純にのせればいいというものでもない、昔から重石はレンガ一個分の重さがちょうどいい一つの基準になっています。

    仕上げる時間は、その時の昆布の状態、鰊のもどり具合によって微妙に違っています。煮上がるちょっと手前の状態で、もう充分市販されている防腐剤の入った昆布巻くらいの味にはなっています。しかしうちはで防腐剤まったく使いませんので、日保ちさせるためにさらにもうちょっと濃くしていく必要があります。最初に鍋にきめた時に比べて随分嵩が増えていますが、理想的なのは、鍋肌の一番下と一番上が同じように炊けていることです。一鍋全部同じ固さと同じ味に仕上げること。最初に鍋にきめる時、昆布がもどった時の鍋底からの煮汁の上がり具合を想像し、隙間を空けて鍋にきめていきましたし、それに干瓢で巻く工程でも、煮上がった時の状態の太さを考え、干瓢をちょっと弱めに結わきましたよね。今、太くなって、ちょうどしっかりとした状態ですが、それでもどこも干瓢は切れていない、このように少し大きくなるのを想像して鍋にきめるなり、干瓢を巻いておくわけです。

  2. ●穴子昆布巻
    穴子も全部ここで割いて開きます。昆布巻はその年によって中に入る材料が違っていますが、基本的には、やはり日保ちのいい鰊というのは必ず作ります。その他に、その年によって肉を使ったり、穴子を使ったりと、それこそ毎年のように色々中身を変えています。穴子を使うのは、出汁が出ないので素朴な味に仕上がる身欠き鰊に比べ、穴子は脂もあって素材から出汁も出てくるため若い人でも食べてくれる率が多いのと、時間的にも鰊よりももどりが早いので作りやすいためです。穴子の旬は夏ですが、冬は脂がのっていて、松島穴子なんて大きいものも出てきます。大きい穴子はけっこう骨が当たりますが、昆布巻にすると骨まで柔らかくなりますね。

    ◎今回は穴子と鰊で二種の昆布巻を作りましたが、作るのは鰊のほうが難しいですね。穴子は一度焼いていますし、固く締まるというのはまずありませんから、昆布巻としてはそんなに難しくはないんです。けれども鰊というのは調味料が入ると締まるというクセがあり、かといって一回干してあるものですから、簡単には中まで味が入っていきません。煮れば煮るほど、砂糖が入れば入るほど固くなり、逆に昆布は煮れば煮るほど柔らかくなるため、目が離せないというか、けっこう厄介なんです。素材が違えば繊維も違い、もどし具合、砂糖など味の入れ方も違ってきます。美味しく食べられる固さで中まで味が入っている、昆布も溶けていない。干瓢、昆布、そして中に入る材料の3つが最終的に同じ固さに炊き上がるようにバランスをとるのが一つのポイントになるわけです。煮染めなのでだいたい時間的には3日くらい炊いていますが、それ以上はかけられないんですね。今度は別の食べ物になってしまうというか、昆布の味もしなければ中の素材の味もしなくなってしまう。鰊でも穴子でも、あるいは肉を巻くにしても味つけはみな違っていますが、おせちというのは美味しさだけではなくて保存という意味があるので、この3日という時間で、いかに日保ちするように味をしっかり中まで入れていくのか、そのために必要な調味料をどのくらい使うのかが大事ですね。

    1. 鰊昆布巻・穴子昆布巻1
      上質な昆布の表面の粉をたわしで取ります。

    2. 鰊昆布巻・穴子昆布巻2
      身欠き鰊を米のとぎ汁で戻しておきます。

    3. 鰊昆布巻・穴子昆布巻3
      昆布を鰊の長さに会わせ、やや短めに庖丁します。

    4. 鰊昆布巻・穴子昆布巻4
      後に昆布が戻って厚くなることを考えながら、鰊を昆布で巻きます。

    5. 鰊昆布巻・穴子昆布巻5
      干瓢は塩を加えて揉み、水洗いします。

    6. 鰊昆布巻・穴子昆布巻6
      無駄を出さないため、長いまま結んで切ります。

    7. 鰊昆布巻・穴子昆布巻7
      一巻きめはきっちり、二巻きめは少しゆるめに巻きます。

    8. 鰊昆布巻・穴子昆布巻8
      隙間を入れて鍋に三段にきめていきます。

    9. 鰊昆布巻・穴子昆布巻9
      もどって膨らむ昆布の状態。煮汁のまわり方を考えて隙間をあけます。

    10. 鰊昆布巻・穴子昆布巻10
      下段、中段よりも上段はある程度詰めても構いません。

    11. 鰊昆布巻・穴子昆布巻11
      落し蓋をして重石を載せます。レンガ1個がちょうどいい重さです。

    12. 鰊昆布巻・穴子昆布巻12
      2~3度茹でこぼします。昆布が膨らんだこの状態を最初に想像します。

    13. 鰊昆布巻・穴子昆布巻13
      煮あげていきます。

鈴木直登 氏

  • 大手町・東京會舘
  • 和食総調理長・師範