蛸柔らか煮

「すべての品を手作りする」をコンセプトに、シリーズでお伝えする『伝えていきたいこの仕事 おせち料理編』。第六回は、蛸柔らか煮をご紹介します。作り手は、鈴木直登師範(東京會舘2009年1月)です。


蛸柔らか煮

師範・鈴木直登 東京會舘(2009年1月)

蛸柔らか煮は、塩を使わないで蛸を普通に洗います。ただ水で洗うだけですが、小麦粉とかで洗ってもいいですね。塩を使うと締まってしまうので塩だけは使いません。本当にいいのは大根卸しですが、相当量使うことになってしまうので、水でよく洗っています。

一度水で洗った後、霜降りして、今度は吸盤一個一個を洗って砂などをきれいに取ります。注意する点としては、ある程度の中霜で、普通の霜降りより若干強めに霜降りしますが、霜降りですからまだ生の状態ですね、そのあともう一度イボ(吸盤)を掃除するので、それができる程度にしておきます。吸盤はどうしも浮遊物がたまるために雑菌が多いので、よごれをよく取っておきます。

今度は鍋にきめてもどしますが、その時も番茶と鰹を使ってもどしていきます。この時、まず下準備で敷き笊をしっかり編まないといけません。これは使う鍋によって少しずつ違うので、鍋にぴったり合うように入れながら編んでいきます。使用する笊の一部は去年編んだものですが、よく洗っておけば二年くらい使えるんです。それくらいしっかり編めていないと、中上げした時に外れてしまったりすると台無しになります。それこそ煮上がりが変わってきてしまうくらいちょっと大事な工程といえます。敷き笊は、蛸などを炊く担当の人がいて、その下に付く人が用意しておくものです。これは一カ月の日程を見て、この日はこれを炊くから鍋が何台必要か、敷き笊が何枚必要かというのを判断して、それを用意しておくのが脇鍋の仕事なんですね。しかもその仕事中ではなく、手の空いた時間にやっておくものです。作るから鍋持って来いといった時には、もう敷き笊が用意できていないと駄目なんですね、しかもしっかりと組めていないといけません。鍋にきめて火にかける時は、あまり浮遊しないように重石をかけて火を加えていきます。二日間くらいはかけないともどりませんが、今は圧力鍋でもどしている人もいますね。ただしうちの場合は、もどすだけではなくて保たせるために味をしみ込ませるので、それで時間をかけるわけです。完全に中までは入りませんが、その近くまでもっていきます。蛸とか烏賊の繊維は食べて消化が悪いわけではないのですが、確かに締まるんです。それを一度蛸の繊維が全部柔らかくなるまでもどしきり、ある程度柔らかくなって、そこから今度ぐっと締まってくる、そこからさらにもう一度ボイルして繊維を全部崩してやります。

完全にもどったところで一度水上げして、今度は味をつけて煮上げていきます。煮上げていく時は、鍋を動かさないで、火の加減によって敷き笊ごと動かして位置を変えて調節していきます。ずっと詰めるだけ詰めていきますが、最後のつゆだけは必ず、五鍋作るのでしたら五鍋全部一旦合わせて味を直し、それからまた分配します。

味つけに関しては、やはり昔と違うのは、砂糖を使う量が少なくなってきました。砂糖の使う量は昔の半分とは言いませんが、だいぶ減らしています。日持ちという点からすると不利ですが、食べないもの(美味しくないもの)を作っても意味がありませんし、保存食を作っても仕方がないので、それなりに味わって召し上がっていただけるものを作ろうと取り組んでいます。時間をかけて作れば砂糖の量が少なくても傷みにくく、日保ちしますからね。一つの鍋でだいたい五六本、これが、ガス台の数に限りがありますから、七杯がうちで一度に作れる最大の量になります。

蛸というのは皮の性質よりも、身の性質のほうが強いので、炊いている時なども皮が剥けやすいんです。そうすると特に色つやが悪くなるので、皮が剥けないようにして煮るというのは、一つの煮方の大変なところです。それとイボも切れないようにしないと、正月に使う縁起ものなので、取れてる・剥けてる・離れている・切れているとかは駄目ですから、なるべくそのまま使えるようにしないといけません。

蛸柔らか煮1
蛸を水洗いして胴と足を切り離します。
蛸柔らか煮2
普通の霜降りより若干強めに霜降りします。
蛸柔らか煮3
敷き笊を使う鍋にぴったり合うように編んでいきます。
蛸柔らか煮4
敷き笊はしっかり編んでおくのがちょっとしたポイントです。
蛸柔らか煮5
隙間を開けないようにきれいに鍋に詰めていきます。
蛸柔らか煮6
三段ほど重ねます。この鍋で56から57本入ります。
蛸柔らか煮7
上部の周りに薄板をのせます。
蛸柔らか煮8
昆布をのせ、落し蓋をします。
蛸柔らか煮9
浮き上がらないように重石をのせ、2日ほどかけて戻します。